「物語 ウクライナの歴史」黒川 祐次著(中公新書)を読んで
ロシアによるウクライナ侵攻も3ヶ月を過ぎてしまいました。以前当ブログでも「ウクライナ問題について思う」として2022年02月24日の侵攻以前に問題提起として、なぜウクライナ系住民とロシア系住民が混在しているのかについて答えを出せないまま書いたところです。ようやく、この問の答えを提示できる本書「物語 ウクライナの歴史」黒川 祐次著(中公新書)を読みましたので紹介したいと思います。
本書では、ウクライナの歴史が相当前から書かれていますが、今回はウクライナ系住民とロシア系住民がなぜ混在しているのかについてかいつまんで紹介したいと思います。
まずは、ウクライナが18世紀に帝政ロシアの領土となり荘園貴族が移入してきたことがあります。
次に、19世紀末に地元のウクライナ系住民が農業に工場労働者としてロシア系住民が移入してきたことがp163に
既述のように農民は土地不足と人口増で捌け口に困っており、確かに相当数が工業地帯に流れたが、それ以上に工業労働者になったのはロシア人であった。前述のとおり、ウクライナの都市は以前よりポーランド人、ユダヤ人、ロシア人の住んでいるところであり、そこでの言語、生活様式は農村に住むウクライナ人とは大きく異なっており、農民にとって都市は居心地の悪い異質な世界であった。したがって工業化に伴い労働者が必要となっても農民は必ずしも都市に働きに出なかった。
と、あります。
三番目にソ連時代に支配階層として政治、行政の立場にある人が移入してきたことがあります。あと、p240にソ連時代のクリミアを移管を
これは対ウクライナ懐柔政策であったが、他方ロシア人が人口の七〇%を占めるクリミアをウクライナに帰属させることによってウクライナの中でロシアの比率を高める意図もあったとされている。
と、しておりクリミア移管についてはロシアが浸透目的でロシア系住民の多い地域を移管しロシア系住民を増やした部分はありそうですが他の地域ではそうでもなさそうです。
あと、ソ連崩壊の際にロシアから独立したときロシア系住民の多い地域でなぜウクライナ側に編入されたのかと言う疑問がありますが、これにはp251に
十二月一日、ウクライナの完全独立の是非を問う国民投票と初代の大統領を決める選挙が行われた。国民投票では九〇・二%が独立に賛成した。ロシア人の多いハルキウ、ドネツク、ザポリッジア、ドニプロペトロフスクの各州でも八〇%以上が賛成であった。ロシア人が過半数を占めるクリミアでも賛成は五四%と過半数を上回った。
と、しており投票で過半数を占めていたことが伺えます。それなのになぜウクライナ系住民とロシア系住民とでイザコザが発生したのでしょうか。この辺の現代史については2002年初版の本書では記述されておりません。
クリミア半島ではロシア系住民が過半数以上を占めており、独立の際の投票では過半数を占めていたはずですが、2014年03月16日に行われたロシアへの編入の是非を問う住民投票では96.8%が編入に賛成しています。これは、どういった理由による心変わりだったのでしょう。選挙が操作されたと言うには数字が大きすぎます。操作されているのであればその後の統治にも支障をきたすはずです。当方は、ウクライナ政府への失望が大きかったのではとの解釈に至ります。Webページ「社会実情データ図録」で指摘されているとおり、マイダン革命により親ロシア派のヤヌコビッチ政権崩壊後の新しい暫定政権が2014年02月23日にロシア語を準公用語とする言語法を廃止したことが響いているのではと思っています。
1991年の国民投票時点でのウクライナ系住民とロシア系住民では同床異夢だったのではないでしょうか。それでもなお、ロシア系住民の多い地域での1991年の国民投票での決定は重大だと思います。ですので、当方は、ロシアのクリミア半島併合もなされるべきではなかったと思います。この辺は、ほとんど単一民族国家である日本人には理解しにくいのではと考えさせられてしまいます。
さて、本書はもちろんウクライナの歴史を全般的に網羅した本になっていますのでコサックのことやウクライナにいたポーランド人やユダヤ人との関係なども示してくれており、ウクライナを理解するには良い本だと感じました。
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