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2018年7月23日 (月)

「軍事のリアル」冨澤 暉著(新潮新書)を読んで

 この本は、著者の経験をもとに日本の自衛隊がおかれている状況や法律上の問題点などを書いてある本です。
 少し堅めの本で用語の厳密さや難しさがあるのに、その定義はあまり説明されていないので少々読みにくい本となっています。例えば、第1章、第2章に頻繁に出てくる「集団安全保障」と「集団的自衛権」と言う用語がありますが、実用例を示すばかりなので用語がわかっていることが前提となっています。
 しかし、考え方は陸上自衛隊元トップが書いているだけあってうなずかされるところがあります。今回は当方の解るところについて注目したい点を紹介して行きたいと思います。
 まず、第3章には他国語から日本語に、またその逆の日本語から他国語に直すとうまく伝わらない例が記載されています。例えばp36に「security」を安全保障と訳すか自衛と訳すかとか、p43では自衛隊(self defense force)を英語で訳すと「護身隊」とか「正当防衛隊」と聞こえることから、外国の軍隊から嘲笑され仕事がやりづらくなるとか書かれています。
 次に、第5章では、当方が以前から懐疑的に思っているミサイル防衛(MD)が日本の防衛には不十分であることをp60に
 ミサイル防衛に使用するPAC-3やSM-3等は元々「待ち受け兵器」であって、その射撃陣地のまわりにある重要警護対象を護るものである。例えばPAC-3を東京中心部の空き地等に数多く配備すれば、山手線内部の皇居、永田町、霞が関、防衛省等を護ることはある程度期待できる。しかしその場合、筆者の住む横浜の住民は有効射程外なので護ってもらえない。
 イージス艦搭載のSM-3は本来、ミサイル攻撃に弱い航空母艦を護るために開発されたという。空母機動軍(艦隊)の比較的近く(200キロ以内)に存在して艦隊向けに飛んでくる弾道ミサイルを高度200キロ付近(秘密事項なので推察)で撃ち落とす、とされている。
と、示しています。更に第12章では、「ミサイル防衛の限界と民間防衛」としてp151で、
 北朝鮮による核弾道ミサイル攻撃に対して、日本のミサイル防衛システムでは対応できないことは、第5章で述べた通りである。
 そこで、日本も、艦艇搭載の非核巡航ミサイル(無人飛行機みたいなもの、例えばトマホーク)などにより敵基地を攻撃できるようにしては、という意見が20年も前からある。現に25大綱の自民党案には確かにその項目があった。しかし専守防衛という防衛政策が変更されることはなく、また仮に攻撃が許されることになっても、前述したように通常兵器による反撃は、目標の弾道ミサイル発射機が動きまわり、更に地下壕に待避するため、米軍でも効果的に実施できないのである。
 と言うことになれば、本当に核攻撃から身を守るのであれば、日本でも「核シェルター」を準備して国民を守るしかない。・・・以下略・・・
と、しており弾道弾移動発射台の攻撃が難しいので核シェルターの有効性を唱えています。
 三番目に、第12章ではその北朝鮮に関してほぼ当方が以前Webページで言ったのと同じ様な分析をしています。
p149に
 一方、日本に対して北朝鮮が核ミサイル攻撃をする公算は大きくなっている。北朝鮮が中国や米国やロシアに核攻撃をする可能性は今のところ無い。そんなことをすれば一挙に北朝鮮側が叩きつぶされることが自明だからである。
 北朝鮮は韓国に対しても核攻撃をしないであろう。将来、北朝鮮主導で朝鮮半島を統一したいという希望を金王朝が持つかぎり、その合併対象の韓国に核攻撃はできない。
 四番目に、p161ページに平和についての考え方として、
戦死者数の少ないことが平和だとすれば、世界は(1)20世紀前半より(2)後半、そして(3)ソ連崩壊以降(すなわち米1極体制)と、より平和になって来たといえる。
と、していますが、核兵器による事故など潜在的な死亡者数が勘案されていないことが気になります。
 続いて、核の廃絶についてp162に
 日本では特に「核廃絶」を主張する人々が多いが、本当に世界から核がなくなっても世界に平和は訪れないであろう。なぜなら在来型(通常型)兵器が残るからである。
 在来型兵器はその使用者に「相手を絶滅させても、自分は生き残れる」という可能性を与える。核兵器に比べ在来兵器には「軍事的相互脆弱性」がない。
 ならば「在来型兵器もすべてなくせば良い」という声が返ってくるかもしれないが、これは解決策にならない。1990年から3年間戦われたルワンダ紛争(内戦)では100万人以上の人々が亡くなったと伝えられているけれども、その内の少なくとも10万人以上は鉈や棍棒で殺戮されたという。更に放火も殺人の手段であったという。つまり、彼らの生活用具が武器になったわけである。その生活用具をすべて廃絶することはできない。
と、結局、当方はこの主張に賛成します。しかし、先ほども書いたとおり、核兵器も人間が扱うので事故を皆無にすることは不可能です。核兵器を不用意に増やすことには事故の回避がより難しくなるため出来るだけ核兵器の数を減らす努力はしなくてはならないものと考えます。p166ページから著者も
 既核保有国の核を保全して、その他の国の新たな核保有を禁じることは確かに不平等な話である。しかし、世界の平和、即、各国の平和と考えるならば、これはやむを得ないことと考えなければならない。そこで多くの国々に、核不拡散条約に参加して貰いつつ、既保有国の核軍縮を少しずつ進めて行く、その最終目標として「核廃絶」という遠い先の目標だけは掲げておくというのが現在のNPT体制なのである。
引き続きp166に「日本は核武装すべきではないけれど」として、
 NPT加盟国たる日本が核武装することは、できないしすべきではない、というのが筆者の考えである。軍事は外交の背景として存在するものだから、日本が孤立化し、その外交が成り立たなくなるような軍事措置をとってはいけない。
としています。
 今回は、当方の注目した点を紹介してきましたが、その他にもこの本には冒頭にも述べた、法律上の問題点とか、米国政策の様子見のためにシンクタンクが使われるとか、PKOの問題点とか陸・海・空自衛隊の「出自」と「性格」などなど書かれております。ちょっと難解なところは有りながらも一読してみてはと思います。

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