東アジアと日本の関係を書いた歴史の本を読んで思う
本項では、最近、読んだ「「反日思想」歴史の真実」拳骨拓史著(扶桑社新書)と過去に読んだ明治維新以降の歴史を書いた本「教科書が教えない歴史 自由主義史観、21世紀に向けて」藤岡信勝/自由主義史観研究会著(扶桑社文庫)と「戦争の日本近現代史」加藤陽子著(講談社現代新書)を読み返して思ったことを書いてみたいと思います。
拳骨氏の本は、日本と中国・韓国の歴史の流れを書いたものです。それは、第二章p59“中国の反日思想の起源”から始まり、最終章まで続くものです。このなかでは、聖徳太子の手紙から始まり、最近韓国であった盗まれた仏像の窃盗問題までが、日本の立場から力強く書かれています。本では表紙の帯に“中国・韓国における反日思想の起源、そして現在に至るまでの反日の流れを「日中韓2000年の歴史」から解明する!”としていますが、やはり私には特に、p117“開国と鎖国、日韓対立の始まり”以降の明治維新後からの記述は征韓論とは何だったのか、どうして日清戦争に至ったのか、どうして韓国を併合したのか、どうして日露戦争に至ったのかなどについてわかりやすく記載されている部分だと感じました。
ただ、歴史の流れを書くことに重点が置かれているためか、何故日本が朝鮮半島に進出しなくてはならなかったのかについてはあまり記載がなく、「教科書が教えない歴史 自由主義史観、21世紀に向けて」藤岡信勝/自由主義史観研究会著(扶桑社文庫)のp181からの“日本統治下の台湾・朝鮮”の項のp191に
当時の地図を見るように、ユーラシア大陸から日本列島に向かって腕をグイと突き出した形になっているのが朝鮮半島です。この朝鮮半島にロシアまたは清の勢力が居座ってしまえば、日本はその侵略から自国を守る方法がないのです。
としているような地政学的な視点が抜けています。また、「教科書が教えない歴史」のp182
そこで、明治の日本が最も願ったことは、朝鮮半島に日本と同じ独立の気概をもった、外国に侵される心配のない近代的な国家が誕生することでした。
とまずは朝鮮の独立ありきと簡潔に手法が書かれています。それからさらにp184
この日本統治下での台湾と朝鮮の歴史を見ていきます。その際、次の三点に気をつける必要があります。
第一に、今の時代の基準で過去の出来事を裁いてはならないということです。・・・中略・・・当時は植民地を領有することが悪だと見なされていなかったのです。
第二に、日本の植民地をヨーロッパの植民地と同列に並べるべきではない、ということです。
・・・中略・・・日本は植民地に大変な国家予算をつぎ込んだことになります。それに対し、植民地から得られる収益は支出をはるかに下回りました。・・・中略・・・日本人は植民地を本国並みの水準に引き上げようと懸命に努力しました。これは、ヨーロッパ諸国が植民地から大量の富を収奪したのとは大違いです。
第三に、それにもかかわらず、日本が他国(特に朝鮮)を直接統治したことは、その国を潰したことを意味しています。・・・中略・・・他民族に支配されたことへの怨念が今も人々の胸にうずまいていることも確かです。
当然のことですが、今の物差しで過去を糾弾することは誤りだと感じます。
ここでさらに、「戦争の日本近現代史」加藤陽子著(講談社現代新書)も紹介しておきたいと思います。本書では征韓論から太平洋戦争までが書かれいます。p8で
本書では、日清戦争からあとは、十年ごとに戦争をしていた観のある近代日本を歴史的に考えるために、戦争にいたる過程で、為政者や国民が世界情勢と日本の関係をどのようにとらえ、どうのような論理の筋道で戦争を受けとめていったのか、その理論の変遷を追ってみるいうアプローチをとります。
としています。
概要は拳骨氏と似ているように思われますが、加藤氏はあまり日本の東アジアへの進出をよく思ってはいないらしく、p43
この時期の征韓論(・・・中略・・・)は、政府からは最終的に抑えこまれ、士族層を除く市井の人々には関心のない問題でした。しかし、征韓論など東アジアへの膨張論それ自体のもった意味については、検討を加えておく必要があるでしょう。征韓論の底流にある考え方の一つは、太平洋戦争まで一貫してみられる、対外膨張論の重要な要素であるからです。
とか、p48
ここにわたくしたちは、日本近代の一つの特徴であるといえる、「内にデモクラシー、外に帝国主義」といわれるものの一つの源流をみることができるのではないでしょうか。明治六年の政変時の西郷と、『評論新聞』に共通しているのは、「国家の元気」という観点です。維新当時のような国家の元気を取りもどし、国家の覆滅を回避する道としての、立憲と征韓という組み合わせです。
・・・中略・・・
このような日本人の感覚は、近隣の諸国にとっては非常にありがたくないものであり、それがのちに、実に甚大な被害を近隣諸国に与えたことについては議論の余地はありません。
”とか、p82
第三講で述べた軍事当局者の議論は、日本一国の独立だけを考慮したきわめて独善的な議論でした。山県の意見書からは、不平等条約であった日朝修好条規のさまざまな条項(・・・中略・・・)が、朝鮮社会を混乱させ、朝鮮みずからの手による国内改革を困難にしていった様相への認識は、伝わってきません。
としています。さらに、p82
軍事的観点から国際関係をみる場合の問題点はここにあります。日本の独立を守るために必要だと観念されたことが、軍事当局者の手によって、たんたんと実行さえてゆく過程として独善的に論じられやすいのです。ですから、朝鮮に対する侵略という点を、読み手や聞き手に自覚させないままで論理を展開することも可能になります。
としており朝鮮半島への日本の進出を正当化された意見のみで話すことが可能であるとの見方です。拳骨氏や藤岡氏等の見方には反対なのかもしれません。
加藤氏は征韓論については拳骨氏とは異なる見地でp44に
この場合、木戸が朝鮮を無礼といっているのは、従来使用していた印を廃して新たに皇や勅の文字を入れた印を用いた日本側の国書を、朝鮮側が受けとらなかったからではありません。これまでの朝鮮と日本との関係、すなわち、朝鮮が対馬藩を通じて幕府など武家政権と関係を築いてきたこと、いわば「私交」を結んで天皇への朝貢を怠った点を無礼だといっているのです。
と述べています。
また、地政学的見地についてもp81“第四講利益線論はいかにして誕生したか”に書かれております。
そのような感じで、3つの本の中で、私は「教科書が教えない歴史」に書かれていることが的を射ているように思えます。歴史の流れをみる際には「「反日思想」歴史の真実」がわかりやすいように思えます。それに対して「戦争の日本近現代史」は世界的な帝国主義時代に日本が生き残りを賭けて戦った歴史を否定しているようで同調できないところはありますが、世論や政策が戦争を受け入れるための論理面の説明ではうなずけるところがあります。色々な考え方を見ておくために各本を読んでおくことは良いのかと思っています。
ただ、加藤氏の本は過去の文語体の引用が多いことや難しい漢字を使っていること、言い回しが難しいことがあり私では読むのに少々骨が折れます。
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