「国防の常識」鍛冶俊樹 著 (角川oneテーマ21)を読んで
この本は国防の中に軍事以外にも経済、国民、情報、文化を防衛する必要があるとの考えで、書かれており非常に内容が広範となっています。内容も日本に関係のある事例を主体にしていますが、世界的な部分についても書かれているため、少しばかり面食らうところがあります。
第1章 アジアの地政学的危機 であるが、冒頭は“●金正日はいつ死んだ?”であり読んで面白いのではあるがなぜ?と言う感じです。
それはさておき、この本での面白いと感じた主張を拾ってみます。p43
中国共産党はこのソ連により第1次大戦後に設立された。軍事工作を主とする部門と政治工作をする部門とに分かれ、ソ連からの命令で動いたのである。後に中ソ対立でソ連から離れたため、統一的な命令権者がなくなり政府と軍の二本立てのまま今日に至っている。
としています。さらに、p44
ちなみに今、中国政府は社会主義市場経済のシステムを取っている。かつてのマルクス・レーニン主義のテーゼは捨てたかに見える。少なくとも政府関係者を見ると共産主義をもはや信奉していない様に見える。
しかしそれは政府に限った話であって、軍内部は全く趣を異にする。軍の基本テーゼは相変わらずマルクス・レーニン主義であり、微動だにしない。
と続き、さらに、中国軍部は中国バブル崩壊を見据えて軍拡をしているとの主張です。そして、その軍事力は台湾併合に向かっているとの考えを示しているのです。私は尖閣諸島の件で中国が軍政が統一的に動いているものだと思っていたのですが必ずしもそうではないことを知り少しほっとする様な気分です。
しかし、p50
台湾が中国に併合される事は重大な問題を引き起こすのである。というのも台湾が中国領となれば、台湾防衛上、当然のことながら海軍基地を設置し、海洋軍事支配の範囲を拡張する事は間違いないからである。
として軍事的脅威が日本にも及ぶことを示しています。
p52
台湾が中国に吸収されて、東南アジアが中国の植民地となれば、日米安保はもはや東アジアの平和と安定の為に寄与しなくなる。ただ日本を守るためだけに在日米軍を置いているのは米国にとってお荷物以外の何者でもない。
と危惧されています。
p57
今回の大震災においては「1000年に一度の大災害」というようなことが言われている。・・・中略・・・戦争においては「1000年に一度」という言い訳は通用しない。戦争は相手の意思次第でいつ始まるとも知れず、明日、北朝鮮から核ミサイルが飛んでくることも当然想定しなくてはならない。そして国家は国民を防衛するという強い意思を持たなくてはないらない。
と書いているのですが具体的な処方箋は書かれていません。
p57
本来、防災は防衛の一部である。防災は英語では“Civil Defense”直訳すれば市民防衛あるいは民間防衛であろう。
として防災と防衛は一体のものであることを示しています。
p84
実はこの年の7月1日、中国で国防動員法が施行されている。・・・中略・・・要するにこの法律が施行された時点で日系企業の社員は人質になったも同然であり、中国は新たな経済戦争の遂行手段を獲得したのである
として、日本が戦争を行うことに対して高いハードルがあることを示しています。
p110
ロシア革命直後からソ連は諸外国の大学に大量のスパイを学生として送り込んで大学全体をソ連寄りにさせている。大学生は当時エリートであり、卒業後、国家の指導的な立場になる。結果としてその国全体が親ソ的になり科学技術を含む貴重な情報がソ連に流出している。1930年代のソ連の隆盛はこの情報流出によるところが大きい。
中国、北朝鮮が日本に対しても同様の手法を取っていることをこの引用後色々と示しています。そしてスパイ防止法の必要性を示しています。
他にも色々面白い考え方を示してくれていますが最後に、p224
例えば海上自衛隊は堂々たる海軍でありながら海上保安庁の助けなしには海賊の逮捕さえできない弱体ぶりだ。またこの他に海洋権益を扱う官庁として水産庁がある。ならば海上自衛隊と海上保安庁と水産庁は合併して、海洋省を設立してはどうか?・・・
その他航空自衛隊案や陸上自衛隊案を示して総力戦体制をという趣旨で大胆な考えを示されています。この辺は実際難しいと思えます。
この本は色々面白いことを書いているのですが今起きていることの脅威について書くことに主眼が置かれていてその脅威に対する処方箋についてはあまり詳しく書かれていないことが残念なところです。系統だって説明が成されているわけではないので引用もなんだか鍛冶氏の主張をごろごろ並べただけのものになってしまいました。


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