日本人のための戦略的思考入門 孫崎 享 著を読んで
本書では、まえがき3頁2行目で、“日本の大学で、戦略を体系的に教えるところはない。日本人は、この分野について考えることなく今日まで来た。”としています。他にも、外国の著名人の引用などにより戦略的な思考が日本人に欠けていることを指摘しています。本書を戦略的思考の一助として手に取ってみてはいかがでしょうか。
まずは本書の紹介として、著者の定義する戦略ですが14頁1行目
人、組織が死活的に重要だと思うことにおいて、目標を明確に認識する。その実現の道筋を考える。かつ、相手の動きに応じ、自分に最適な道を選択する手段
としています。私は戦略を戦術より高度な段階程度にしか考えていなかったので新鮮な感覚をいだきました。
そして、戦略的思考としてマクナマラ米国元国防長官の示した67頁にある図や孫子を中心に説明しています。他にも歴史書を引き合いに出したり種々の戦略家の言を引用しています。しかし、本書にも言及されていますがマクナマラ氏はベトナム戦争の指揮をして負け戦を長引かせてしまったので本書の取り扱いとしてはちょっと持ち上げすぎかなと思えます。
次に、具体的な日本の国防戦略で気になったことについて書いてみたいと思います。基盤的防衛力構想に触れて151頁9行目
世界中で国防政策として、侵略されても同盟国が助けに来るまで待っていなければならないとしている国が、どこにあるだろうか。
として独力で守るという思想が無いことを危惧されています。また、155頁から“米国は本当に日本を守ってくれるのか”と題して①尖閣諸島の場合、②北方領土の場合、③竹島の場合について過去の米国からの発言等により米国の立場を述べています。164頁4行目にまとめとして
日本の多くの人は、日米同盟の下、米国は領土問題で日本の立場を強く支持していると思っている。だが、実態は違う。竹島では韓国の立場を支持し、尖閣諸島では日中のどちらの側にもつかないと述べている。北方領土は安保条約の対象外だ。・・・中略・・・この中、日本はどうするのか。自衛力を増強し、中国が尖閣諸島などで軍事行動をとることに対する敷居を高くするより、方法がない。
としています。これは、私もうなづけるのですが、242頁9行目に中国に対して
しかし、「打撃」は軍事的手段に限らない。経済分野であっても、攻撃で得られる利益よりも大きい被害を被れば、抑止は働く。
としている所がちょっと矛盾し疑問なのです。それは更に、251頁3行目からの“アジアにおいて戦争を避けることは可能か”と題して通常戦力を述べた段(255頁11行目から)で、
第一に、・・・中略・・・敵対的雰囲気を除去する努力は、戦争回避のうえで重要である。
としているが、
第二に、相手国が攻撃する敷居を高くする。領土問題が、しばしば戦争の引き金になることに配慮し、日本の島周辺の監視、抑止体制を強化する。この部分は日本独自で実施するしかない。
としており第一と第二で矛盾した印象を受けます。相手に攻撃されないよう敷居を高くするには守りであっても軍事力を強化する必要がありそれは敵対的雰囲気をかもし出すことになります。
また、先の尖閣諸島中国漁船衝突事件(2010年9月7日に発生。本書は同年9月10日初版発行です。)では結局レアアースの輸出制限、更には軍事管理区域を撮影したとしてフジタ社員を人質にとる等され、逆に中国に軍事以外の「打撃」を受け日本の対応は船長の釈放という形で挫折してしまいました。これらのことから、中国に対しては敵対的雰囲気の除去は困難であり日本が経済的な結びつきを強化しても逆に相手に攻め入る隙を与えることになるように思えます。私は中国とは出来るだけ距離を置き紛争等が起きても打撃を受けないようにするべきだと思います。
北朝鮮についても246頁1行目より同様の記述がありますが、“(3)長期的自壊を待つ”と“(5)経済的に国際社会の中に組み込む”は矛盾しているように思えます。経済的に国際社会の中に組み込めば北朝鮮に核開発の猶予を与えてしまいますし、長期的自壊などは望めなくなってしまいます。
これらの矛盾めいたことが示されているのは、日本の将来が厳しい状況におかれつつあることが背景にあると思いはするのですが。
これらとはまったく別に、軍事費の支出について250頁6行目に面白いことが書かれています。ちょっと長い引用になりますが
これは、軍事費の支出にも反映されている。ストックホルム国際平和研究所発表の数字によれば、二〇〇九年の世界各国の軍事費は次のとおりである(単位は一〇億ドル、「SIPRI YEAR BOOK 2010」による)。軍事費の高い順に、米国六六一、中国一〇〇、フランス六三・九、英国五八・三、ロシア五三・三、日本五一、ドイツ四五・六となっている。 さらに、軍事的緊張が高い、ないし独自の自衛を目指しており、安全保障を特に重視している国がある。これらの国はどうかを見てみよう。イスラエル一四、スイス四、台湾一〇、韓国二七、北朝鮮五となっている。(出典・「GlobalSecurity.org」ウェブサイト)。この数字は意外なくらい低い。 自分の国は自分で守らなければならないと考え、安全保障を重視している国の軍事支出が、日本よりはるかに低い。このことは、日本が軍事支出対象を十分検討すれば、自ら守ることにおいて、費用の面が、さしたる障害にならないことを示している。
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